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福岡家庭裁判所 昭和41年(家)1339号 審判

申立人 山岡サキ(仮名)

相手方 山岡太郎(仮名)

主文

相手方は申立人に対し昭和四一年五月以降同人らの別居期間中一ヵ月金七、〇〇〇円宛を毎月末目限り(但し既に期限の到来した分については即時に)申立人に送金して支払え。

理由

一  申立の要旨

申立人は「相手方は申立人に対し昭和四一年五月以降各月末日限り毎月一万二、〇〇〇円宛を支払え」との審判を求め、申立の実情を次のように述べた。

(一)  申立人と相手方は夫婦であつて、その間に長女康子(昭和一九年一月一五日生)二女幸子(昭和二三年一二月七日生)、二男真一(昭和二五年一二月六日生)三男英夫(昭和二七年一一月三日生)の四人の子がある。

(二)  相手方は昭和三一年五月頃から仕事に出たまま行方不明となり、申立人は相手方が残していた借金三〇万円位を、その後五年間位に亘り農業手伝、縫物、日雇労務などで苦労を重ねて働き返済した。ところが、昭和四〇年四月相手方が肩書○○運輸に勤務し、情婦高山美子と同棲生活をしていることが判明した。

(三)  申立人は四人の子供をかかえて生活保護を受け、生活に苦労しているのに、相手方は日給九七〇円位を得ているので申立人において昭和四一年五月相手方との夫婦関係調整(離婚、慰藉料、子の養育費等請求)の調停申立をしたが、調停は成立しなかつた。

そこで、申立人は相手方に対し婚姻費用の分担として毎月一万二、〇〇〇円の支払を求める、というのである。

二  当裁判所の判断

本件記録および関連(調停)記録中の戸籍謄本、福岡市西福岡福祉事務所長作成の証明書、家庭裁判所調査官畑地久子作成の調査報告書を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  申立人と相手方は昭和一三年頃結婚し、同年に出生した長男は間もなく死亡し、その後申立人主張のとおりの子供四人ができた。相手方は昭和二九年頃から高山美子(四〇歳位)と不倫関係をもち、料理屋等に多額の借金(申立人は三〇万円位と主張し、相手方は一〇万円位と主張していて、その真相を確認できる資料はない)をつくつたまま、昭和三一年五月頃から当時勤めていた○鉱抗木を辞めて、右美子を伴いその所在を晦ますに至つた。

(二)  申立人は相手方が行方不明となつた後は、肉体労働に従事して四人の子供を養い、相手方の残した前記借金も数年かかつて返済(右返済金額は前記のように確認できないが、その多寡は離婚にともなう財産分与などに当つて斟酌されるべき事項であつて、本件では別居の責任が当事者のいずれにあるかを判断するための一つの資料となるが、婚姻費用分担額を定める上では斟酌すべき事項とはならないので、その返済額については必ずしも明確に確定する必要はない)した。そして、昭和四〇年四月頃相手方が申立人の許に立ち帰えろうとしたことがあつたが、申立人は相手方の身勝手な態度を責めて、これに応じなかつたので、相手方は前記美子との同棲生活を続け、爾来離反の生活を送つており、申立人主張の当裁判所における相手方との夫婦関係調整の調停申立も不調に終つた。

(三)  申立人は月収として生活保護費二万六、〇〇〇円、二女幸子に対する母子家庭修学資金一、五〇〇円、長女康子(住込み美容師)からの仕送り五、〇〇〇円位を得ていて、なお二男真一も近く稼働する予定で、家賃四、〇〇〇円の市営住宅に居住しているが、申立人は昭和四一年六月交通事故で六ヵ月位の加療を要する負傷をし、二女幸子、三男英夫らの学費月六、〇〇〇円位が必要である。

(四)  相手方は肩書○○運輸に勤務し、月収(手取り)として二万余、前記美子(臨時工)の月収が五、〇〇〇円程度あるが、テレビ等月賦代金の若干の負債があつて、家賃三、五〇〇円のアパート生活をしている。

以上認定の諸事情に鑑みると、申立人と相手方との別居生活はさらに相当期間継続するものと思料され、本件当事者間の別居は主として相手方の責に帰すべき事由によるものであることは明らかであるから、相手方は別居期間中申立人に対し、自己の収入、地位にふさわしい程度の生活費用の分担をすべき義務があつて、その相手方が負担すべき費用分担額は本件調停申立のなされた昭和四一年五月分以降月額七、〇〇〇円を毎月末日限り(但し、期限の到来した分については即時に)支払うのが相当と認める。

よつて、主文のように審判する。

(家事審判官 小川宜夫)

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